PREFACE 序論

アダルトビデオという世界に星の数ほど犇めく女優達。一線で活躍する女優の中には女性誌モデルと比較しても何ら遜色ない容姿を持つ者も多く、そのイメージとは乖離した激しい痴態・行為をカメラの前に晒すことで、視聴者に強烈な性的高揚感を供与する。彼女らはそこで一瞬輝きを放つも、ごく一部を除いては総じて短命に終わり、次々と現れる後進の陰に消えていく儚い存在だ。「ひなた」もそんな束の間の閃きの如く登場し、その生硬さを残した風貌ゆえ、扮する役回りは狭く限定されるものの、「女子学生役専門」女優(実際には学生役ではない作品も存在する)として映像の中で強い個性を発散させてきた。
彼女の魅力とは何か。ありふれた言い方をするなら、AV女優という肩書きとは相反する透明感を伴う「少女性」で、キャスティングから想起される虚像の域を超過したその佇まいにあるだろう。それは、邪気なさを留めた容貌やその面持ち、未熟で華奢な身体の線、適切なエロキューションや垣間みられる、些細な挙動や頬笑_ それらのサブリミナル的な蓄積の末に享受される写実的感触だ。
同時に躍然たる庶民性をも有し、複数の出演作品に於いてこの一貫したペルソナを保持して「身近に居そうな親近性」と真率な情調を天賦の表現力を交えて体現している。演出者の思惑に沿って様々な造形がなされた役柄のなかで、さりげない所作に見え透く彼女自身の「素」の表出から、その明朗性に富む資性をも多分に感取しうる。容姿的にみれば、彼女と同系列にカテゴライズされる女優も多数存在するが、ただ単に制服を着て女子学生を模倣しても甚深なニュアンスを並立させ具現化できるAV女優は稀だ。「ひなた」は無邪気な快活さと稚さを残した容貌、スレンダーな肢体が相俟い、10代を彷彿とさせる刹那的な輝きを一身に留めている稀有な存在だ。端正な美形ではなく可憐な愛らしさという点で、アイドル的資質をも兼ね備たその個性は、見るものを魅了する大きなファクターとなっている。
ここではAV女優「ひなた」(のちに「森山茜」として改名再デビュー)の軌跡を追い、出演作のごく一部を取り上げてその作品を取巻く事象を雑感として述べた。その意識喚起の源たるのは、ひとえに彼女が放つ強い求心力に起因するものだろう。